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広島地方裁判所 平成8年(行ウ)10号 判決

原告

日野邦治

被告

広島国税局長 河手悦夫

被告

三原税務署長 城賀宏壮

被告ら指定代理人

内藤裕之

山﨑保彦

被告

三原税務署長指定代理人 牛尾義昭

小濱兼次

主文

本件訴え中、被告らに対する原告の平成二年分の所得税額を〇円とする旨の合同再更正請求に係る部分(請求の趣旨第二段)及び被告三原税務署長に対する金四七三万二八〇〇円の支払請求に係る部分(同第三段)をいずれも却下する。

原告の被告三原税務署長に対するその余の請求(請求の趣旨第一段)を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告三原税務署長が平成四年六月二四日付でした原告の平成二年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。

被告らは合同して原告の平成二年分の所得税額を〇円とする旨の再更正をせよ。

被告三原税務署長は原告に対し金四七三万二八〇〇円を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

第三段について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二主張

一  請求原因(処分)

原告は平成三年三月一五日被告三原税務署長に対し平成二年分の所得税の確定申告に際し総所得税金額を二〇一八万八〇四五円、分離短期譲渡所得金額を〇円、納付すべき税額(源泉徴収税額五四万九六〇〇円を含まない)を四一八万三二〇〇円として申告した。

右申告に対し、被告三原税務署長は平成四年六月二四日付で原告の平成二年分の所得税について総所得金額を二〇一八万八〇四五円、分離短期譲渡所得税金額を一億五三九〇万五〇〇〇円、納付すべき税額を八八一七万九九〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という)及び重加算税額を二九三九万六五〇〇円とする重加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という)をした。

本件更正処分及び賦課決定処分を不服として、原告は平成四年八月二一日被告広島国税局長に対し異議申立をしたが、右被告は同年一一月一七日これを棄却する旨の決定をした。

原告は平成四年一二月一七日本件更正処分及び賦課決定処分について広島国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、右所長は平成八年二月二七日付でこれを棄却する旨の裁決をした。

原告は被告三原税務署長に対し平成二年分の所得税として四七三万二八〇〇円(源泉徴収税額五四万九六〇〇円を含む)を納付期限に納付した。

実際には原告の平成二年分の総所得金額は〇円であり、納付すべき税額は〇円であるべきものである。

よって、原告は被告三原税務署長に対し本件更正処分及び賦課決定処分の取消を求め、被告らに対し合同して原告の平成二年分の所得税額を〇円とする旨の再更正を求め、更に被告三原税務署長に対し納付済みの所得税額相当の過誤納金四七三万二八〇〇円の還付を求める。

二  本案前の主張

1  請求の趣旨第二段

請求の趣旨第二段は原告が被告らに対して平成二年分の所得税について原告主張のとおりの減額更正を求めるものであり、いわゆる無名抗告訴訟の一つの義務付け訴訟に当たる。義務付け訴訟は行政庁が当該行政処分をすべきこと又はすべきでないことについて法律上羈束され、行政庁に裁量の余地が全く残されていないために第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないと認められ、かつ当該行政処分を義務付けしなければ回復しがたい損害が生じるなど救済の必要性が顕著で、司法権の行使による以外法律上他に適切な救済方法がないなどの例外的な場合にのみ許されるものと解されるところ、申告に係る所得金額が過大であるとしてその過誤を訂正するには法律上当該申告者はまず税務署長に対して更正の請求をし、これが入れられない場合には税務署長がした更正をすべき理由がない旨の処分に対しその取消を求める訴えを提起することができ、勝訴すれば右の過誤が是正されるという救済手段が用意されているのであるから、請求の趣旨第二段は義務付け訴訟の許される例外的な場合には当たらないものというべきである。

したがって、請求の趣旨第二段は行政事件訴訟法上の坑告訴訟としては不適法であり、却下されるべきである。

2  請求の趣旨第三段

請求の趣旨第三段は原告が被告三原税務署長に対し過誤納金の還付を求めるものであり、行政事件訴訟としての当事者訴訟に当たると解されるが、右被告は単に国に所属する行政機関の一つにすぎず、権利義務の主体たり得ず、当事者訴訟の当事者能力を有しないから、請求の趣旨第三段は当事者能力のない者に対する訴えである。

したがって、請求の趣旨第三段は不適法な訴えであり、却下されるべきである。

三  本案前の主張に対する反論

被告らが合同して行った本件更正処分及び賦課決定処分にはその要素に錯誤があるから、被告らは合同してこれらを当然に更正する(税法上の規定に基づく更正の意ではなく、誤りを直すの意である)義務を負うところ、被告らが任意に右更正を行うことはあり得ないから、原告は本訴にて右更正を求めるものである。

被告三原税務署長の過誤納金の支払義務は原告主張の事実認定がされ、これに基づき再更正がなされれば当然に発生するものであり、右支払に関しては同被告が被告適格を有するものと解すべきである。

原告の請求の趣旨第二、第三段について訴訟法等の規定又は訴訟理論上は問題のある部分が存するとしても、憲法三二条の趣旨からして、当事者間に法的紛争がある以上、裁判所は公平でかつ迅速な解決を図るため、原告の請求の全部について法的判断をすべきである。

四  請求原因に対する認否

請求原因第一乃至第五段は認め、同第六段は争う。

五  抗弁(処分の適法性)

1  本件更正処分

別紙第一物件目録一乃至五の不動産(以下「本件不動産」という)はもと廣谷宏外二名(以下「廣谷ら」をいう)の所有であったところ、原告は右不動産を平成二年九月七日廣谷らから代金八〇〇〇万円で買い受け、同年一二月五日竹野光太郎に対し代金二億五〇〇〇万円で売り渡した。

本件不動産の取得のため原告は買受代金の外に四五八万五四〇〇円の費用を要した。また、右不動産の売渡の後平成三年二月七日原告は竹野光太郎から錯誤を理由に右不動産のうち別紙第一物件目録一の土地の一部と同目録二、三の土地の返還を受け、同人に対し受領した売渡代金のうちから一平方メートル当たり一五万円で算出した金員を返還する旨合意し、これにより同人に対し八六四万円を返還した。

なお、原告は、平成二年分の確定申告に際し、同年八月一一日細谷清治に対し別紙第二物件目録五1、2の各不動産を代金二二三〇万円で売却し、租税特別措置法(平成五年法律第一〇号による改正前のもの)三五条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》を適用して分離短期譲渡所得の金額を〇円としていたが、被告らはこれについて争わない。

以上によれば、譲渡価格は本件不動産の売渡代金額二億五〇〇〇万円から右返還した金八六四万円を控除して得た二億四一三六万円となり、取得費は右不動産の買受代金額八〇〇〇万円にその取得に要した費用四五八万五四〇〇円を加算し、前記返還合意により返還された土地に相当する部分の金額を控除し、右不動産のうちの建物について所定の減価償却の計算をした後の七八三一万一三二一円となる。

したがって、原告の平成二年の分離短期譲渡所得の金額は前記譲渡価格二億四一三六万円から右取得費七八三一万一三二一円を控除した一億六三〇四万八六七九円となり、本件更正処分に係る分離短期譲渡所得の金額一億五三九〇万五〇〇〇円を上回るから、本件更正処分である。

2  本件賦課決定処分

原告は昭和六三年頃大阪市在住の竹野光太郎から所有不動産の売却依頼を受け、更に平成元年になって不動産売却による譲渡所得に係る節税対策のためいわゆる買換資産の取得についても依頼を受け、当初より右買換資産として竹野が取得する予定で廣谷ら所有の本件不動産の買受交渉に当たったが、その過程において原告自らが廣谷らから右不動産を代金八〇〇〇万円で購入した上、これを竹野に対して代金二億五〇〇〇万円で転売して転売利益を得ることを思いつき、更に右転売利益に対する課税をも免れるため、実際は廣谷らから原告が右不動産を買い受けるのに、廣谷らと原告との売買の間に資産のない森川忠亮を仮装の中間譲受人として介在させ、原告が森川に転売利益を上回る三億一六〇〇万円の金銭消費貸借(別紙貸金目録一乃至五)を有することを仮装し、右不動産について廣谷らから森川への売買の後、森川から原告への右架空の金銭消費貸借に基づく代物弁済を仮装した上で、原告から竹野に対して売買による所有権移転登記を経由した。

この方法によれば、森川忠亮は代物弁済による債務の消滅額である三億一六〇〇万円から本件不動産の取得価格八〇〇〇万円を控除した残額二億三六〇〇万円について譲渡所得が課税されることになるが、森川には資産は何もないのであるから国税債権は徴収不能となる反面、原告は右不動産の譲渡により損失を被った形を装うことができ、課税を免れることができる。要するに、原告は自己の転売利益に課税されないために資産のない森川をいわゆる「かぶり屋」として介在させたものである。

その上で、原告は平成三年三月一五日平成二年分の確定申告に当たり「森川忠亮が同年九月七日廣谷から購入した本件不動産を同年一一月一九日原告が森川に対して有する別紙貸金目録一乃至五の合計三億一六〇〇万円の貸金債権全額の弁済に代えて森川から取得し、次いで原告が同年一二月五日竹野光太郎に対し右不動産を二億五〇〇〇万円で売却したことにより譲渡損失が生じた」として、同年分の分離短期譲渡所得を〇円として確定申告した。

このように、原告は廣谷らから本件不動産を直接取得し、竹野光太郎に対し転売して譲渡所得を得ているにもかかわらず、課税を免れるため、廣谷らが森川に対し右不動産を売却したことを仮装し、更に架空の消費貸借に基づく代物弁済により森川から原告に対する所有権の移転を仮装し、右不動産に係る分離短期譲渡所得が発生しないと称する納税申告書を提出したものである。

右は国税通則法六八条一項に規定する重加算税の課税要件を充たすことが明らかであるから、過少申告加算税に代えて同条項に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

六  抗弁に対する認否

抗弁1は争う。

抗弁2のうち、原告が平成三年三月一五日平成二年分の確定申告に当たり「森川忠亮が同年九月七日に廣谷らから購入した本件不動産を同年一一月一九日原告が森川に対して有する別紙貸金目録一乃至五の合計三億一六〇〇万円の貸金債権全額の弁済に代えて森川から取得し、次いで原告が同年一二月五日竹野光太郎に対し右不動産を二億五〇〇〇万円で売却したことにより譲渡損失が生じた」として、同年分の分離短期譲渡所得を〇円として申告したことは認めるが、その余は争う。

原告は、森川忠亮が平成二年九月七日廣谷らから購入した本件不動産を、同年一一月一九日森川に対して有する別紙貸金目録一乃至五の合計三億一六〇〇万円の貸金債権全額の弁済に代えて森川から取得した上で、同年一二月五日竹野光太郎に対し二億五〇〇〇万円で売却し、譲渡損失を生じたものである。

被告三原税務署長は次に述べるように本件不動産の取引の実態を把握しようとせず、何が何でも原告に課税するとの不当な意図の下に職権を濫用し、故意に捏造した事実に基づいて本件更正処分及び賦課決定処分を行ったものである。

a  買換資産としての取得予定の不存在

本件不動産について当初より竹野光太郎の買換資産として取得が予定されていたようなことはない。

原告は竹野光太郎の二女礒根登志子の夫礒根博司から本件不動産の売り情報を聞かされ、その際、同人から竹野が右不動産を購入しない意向であるからその管理を礒根博司に任せてくれるような買主を探してほしい旨依頼され、森川忠亮に右不動産を取得させたものである。その後、平成二年一一月半ば頃、竹野が当初の意を翻して右不動産を購入したい旨原告に連絡してきたため、原告は右不動産を森川から竹野へ売却させようとしたが、森川と竹野との間で売買価額に関する合意がまとまらないため、原告が森川に対して有する別紙貸金目録一乃至五の合計三億一六〇〇万円の貸金債権全額の弁済に代える趣旨の代物弁済契約により右不動産を森川から取得した上で、竹野に対して売却したものである。

竹野光太郎は平成二年九月四日原告に対して一億六〇〇〇万円を支払っているが、右金員は本件不動産の購入代金ではなく、竹野及び株式会社ミチル大新(竹野が取締役を務める会社)が連帯して平成二年三月二三日に原告から借り入れた二億六〇〇〇万円(甲第三二号証の一)の元金内金一億五〇〇〇万円(弁済期は平成五年三月二二日であったが、竹野らは既に期限の利益を損失していた)及び平成二年九月四日までの利息金八六三万二〇〇〇円の合計一億五八六三万二〇〇〇円の弁済金である(但し、実際の交付額は一億六〇〇〇万円である)。竹野は当時大阪の所有する不動産を売却してその代金を取得したが、これを借入金の返済や二男竹野光信の住宅購入資金等に充ててしまったため買換資産を取得するための資金は全く残っていなかった。

原告から竹野光太郎に対する本件不動産の売却代金二億五〇〇〇万円の内金二億円の決済予定日は平成二年一二月五日、残金五〇〇〇万円の決済予定日は平成三年一月二日であったが、竹野が原告に対し現金で支払ったのは平成二年一二月五日決済予定の売買代金二億円の内金三〇〇〇万円のみであり、同日決済予定の残金一億七〇〇〇万円及び平成三年一月二日決済予定の五〇〇〇万円についてはそれぞれ支払に代えて借用証書(甲第三二号証の二、三)を差し入れただけで、これらの金員は未収となっている。

原告は平成九年四月一九日右売買代金未払を理由として竹野光太郎との間の本件不動産に係る売買契約を解除し、竹野に対し右契約解除に伴う原状回復としての所有権移転登記の抹消登記手続請求訴訟を提起した(広島地方裁判所尾道支部平成九年ワ第五八号)。

b  貸金債権及び代物弁済契約の存在

別紙貸金目録一乃至五の貸金債権及び右貸金債権に基づく代物弁済契約は現に存在しており、架空のものではない。

原告は、森川忠亮に対する債権を回収しなければならないと考え、森川に購入資金を貸し付けて適当な不動産を取得させ、転売益を得させて右債権を回収しようと計画していたところへ、礒根博司から本件不動産の八〇〇〇万円での売り情報を得て、その実勢価格を最低二億円、うまく売れば三億円と評価し、右計画による債権回収が可能であると判断して右不動産を森川に取得させた。ところが、その後、原告が森川に右不動産を竹野へ売却させようとして説明している過程で、森川はその転売益を含めた売買代金の全額を貸金の返済として原告に取られることを知って、原告の思惑どおりの行動をしなくなり、三億一六〇〇万円以上でなければ右不動産を売らない旨主張して譲らず、竹野が右価額を受け入れなかったため、売買価額を巡って両者の合意が得られなかった。そこで、原告は右不動産を森川から竹野に売却させることを諦め、森川に対する債権を全て清算して同人との取引を終了することとし、同人との間で右不動産の平成二年一一月一九日時点での時価による評価額を三億一六〇〇万円とすることで合意し、これを代物弁済により同額で取得し、その後交渉の結果最終的に竹野に対してこれを二億五〇〇〇万円で売却したものである。

原告は、本件更正処分がなされたため、右代物弁済契約が錯誤無効であるとして、森川に対し、別紙貸金目録一乃至五の貸金債権中原告が本件更正処分により課税された税額及びこれに伴い課税された市県民税と同額分の支払いを求める訴えを提起した(広島地方裁判所尾道支部平成五年ワ第二七号貸金請求事件)が、右代物弁済契約に錯誤はないとして原告の請求を棄却する判決が言い渡され、右判決は控訴審でも維持され、確定している。

c  森川忠亮による所有

森川忠亮は本件不動産の単なる名義人などではなく、真実の所有者であった。

原告は森川忠亮に対して本件不動産の購入を勧めるに当たり、前記のような債権回収の意図を秘し、売却の際に譲渡所得税が課せられることなど都合の悪いことは一切説明せず、「儲かる」、「危険負担もなければ、損することもあり得ない」、「購入資金は無利息で貸すから」と焚き付け、森川は値上がりや家賃収入などの経済的利益を期待して真実右不動産を購入する意思を有するに至った。森川は平成二年九月七日原告から購入資金として九〇〇〇万円を借り入れ、これにより右不動産の売買代金、売買関連費用及び不動産取得税を支払った(但し、実際の金銭の授受は原告が管理し、森川には九〇〇〇万円から右売買代金を差し引いた残額のみ現金で交付した)。森川は右不動産の管理を礒根博司に委任し、登記済証書も礒根方に送付させ、同人により実質的に右不動産の維持管理をしていた。森川は前記貸金請求事件において右不動産が自己所有であった旨主張している。

d  その他の不適法事由

仮に、原告に本件不動産の譲渡に係る分離短期譲渡所得が生じているとしても、右不動産の引渡日は平成三年一月二日であるから、これに基づく更正処分は平成二年分としてではなく、平成三年分としてのみできるものである。

また、原告は本件更正処分の原因である原告と竹野光太郎との間の平成二年一二月五日の右不動産の売買契約を竹野の売買代金を理由として解除し、その旨の訴訟を提起したことは前記a末段のとおりである。したがって、本件更正処分及びこれを前提とする本件賦課決定処分は取り消されるべきである。

理由

第一本案前

請求の趣旨第二、第三段はいずれも訴えとして不適法であり、却下すべきものである。その理由は本案前の主張1、2と同断である。

原告は本案前の主張に対する反論のとおり主張するが、いずれも法的根拠のない裁判を求めるものであり、採用の限りではない。

第二本案

一  処分

請求原因第一乃至第五段は当事者間に争いがない。

二  処分の適法性

1  経緯

甲第三乃至第第八、第一二、第一三、第一六、第一七、第二〇乃至第二五、第三三、第三四号証、乙第一乃至第一四、第一六乃至第二二、第三一、第三二、第三九号証、証人新久保成年の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

〈1〉 不動産売却委任

竹野光太郎は昭和六三年頃自ら取締役を務める株式会社ミチル大新(以下「ミチル大新」という)の金融機関等からの借入金の返済資金を捻出するため不動産を売却しようとしていたところ、二女礒根登志子の夫の礒根博司から原告を紹介され、右不動産売却について原告及び礒根博司に対し一括委任した。

原告及び礒根博司は、竹野光太郎外二名が清水保雄に対し平成元年四月二五日その所有する別紙第二物件目録一1乃至3の各不動産を合計一億二八九七円(うち竹野の持分に相当する価額は四二九九万円)で売却する際、また、ミチル大新及び竹野が不二物産株式会社に対し同年一一月六日それぞれ所有する別紙第二物件目録二1、2の各不動産を合計一七億六四〇〇万三〇八円(うち竹野の所有面積に相当する金額は一二億六七四一万〇九一八円)で売却する際、いずれもその契約を実質的に取りまとめた。右各売却に係る譲渡収入金額は、竹野について合計一三億一〇四〇万〇九一八円、ミチル大新について四億九六五八万九三九〇円となった。ミチル大新は同日第一勧業銀行天六支店に対する一〇口分の借入金合計金三億七八八四万七一九六円を弁済し、右不動産に設定された抵当権や根抵当(債務者ミチル大新の根抵当権について被担保債権の合計金額は四億四五六〇万円で、うち竹野売却部分に係る額は二億八五六〇万円、ミチル大新売却部分に係る額は一億六〇〇〇万円である)は同日付で抹消された。

なお、竹野光太郎は、原告に対し、礒根博司の原告からの借入金の保証債務の履行として、広島銀行三原支店の原告名義の普通預金口座(口座番号〇七六四五六六)に平成元年五月一二日四〇〇〇万円、同年一一月六日六億三〇〇〇万円をそれぞれ振り込み、前記売却に係る費用として四五八三万二八四六円を支払ったことになっている。

〈2〉 買換資金の物色

竹野光太郎は、前記不動産売却による平成元年分の譲渡所得について所得税法六四条二項所定のいわゆる保証債務の特例の適用により六億七〇〇〇万円程度の減少が見込まれたが、なおも多額の譲渡所得が生じることから、節税対策として租税特別措置法三七条(平成二年法律一三号による改正前のもの)所定のいわゆる買換資産を取得することとし、右取得についても磯根博司及び原告に対して一括委任することとし、その趣旨で平成二年三月一日原告が代表取締役を務める株式会社ニッポー・ブレーン(平成元年一一月二一日設立の不動産業を主たる目的とする会社、以下「ニッポー・ブレーン」という)との間で右買換資産の取得についての専任媒介契約を締結した。

右専任媒介契約に基づいて、原告は平成二年三月一三日竹野光太郎がミチル大新から別紙第二物件目録三1、2の各不動産を合計三億三〇〇〇万円で取得する旨の売買契約を締結させた。

竹野光太郎は、平成二年三月二三日、第一勧業銀行天六支店のミチル大新名義の当座預金に二億六〇〇〇万円を入金し、同月三〇日、二億五〇〇〇万円が同口座からミチル大新の同支店に対する残債務の弁済金に振り替えられた。

ところが、右物件の取得のみでは竹野光太郎の節税対策として不十分であったことから、原告は更に買換資産を求めるべく礒根博司に対して不動産の物件を要請していたところ、礒根は鳥取の不動産仲介業者の株式会社宙グループ(代表取締役嶌津一)が本件不動産の所有者である廣谷らから希望売却価格八〇〇〇万円で売却仲介依頼を受けて売りに出している情報を得、これを原告に伝え、原告及び礒根は竹野に対し右不動産の取得について一任するよう求め、竹野はこれに応じた。礒根は不動産取引についての知識がないため、その後の右不動産の取得交渉等一切を原告に任せた。

原告は株式会社宙グループと交渉し、平成二年八月頃右会社代表者嶌津一の案内で右不動産を現地で確認し、売買価額を廣谷らの希望どおり八〇〇〇万円とすることに応じ、これを買い受ける段取りを整え、竹野光太郎に対し、右不動産の買受をまず原告が行い、それを竹野に転売したい旨提案した。竹野は原告が転売利益を利得するつもりであることを察したが、もともと節税対策用の買換資産としての取得でもあり、これに応じた。

竹野は原告から転売価格を二億五〇〇〇万円(この金額は、竹野の買換資産の取得可能額五億九四五六万八〇七二円から、竹野がミチル大新より取得した前記不動産の価額三億三〇〇〇万円を差し引いた額にほぼ等しい)と聞いていたが、その頃本件不動産を見に行った際、乗り合わせたタクシーの運転手に付近の不動産の相場を尋ねたところ、一坪当たり五、六〇万円位と言われ、そうだとすると右不動産の時価は八〇〇〇万円程度となり、原告の言い値はちょっと高いなと感じ、原告がようもうけると思ったものの、節税対策用の買換資産であることから、そのまま買い受けることとした。

〈3〉 本件不動産の廣谷らから森川忠亮への移転登記

竹野光太郎は、平成二年九月四日、原告からの本件不動産の買受代金の一部先払いに当てるため、礒根博司及び礒根登志子を同道して、せとうち銀行三原支店に赴いて同支店の竹野名義の普通預金口座(口座番号二一七八三二一)から一億六〇〇〇万円を現金で引き出し、これを全額、右両名を介して原告に交付した。

原告は、これに先立ち、交際中の女性の父で三原市貝野町八〇番地竹本アパートに一人住まいをし日雇い労働をしている森川忠亮に対し、従前の貸金をチャラにする上資金の段取りもつけてあるから本件不動産の買主名義人となり、その後に自分に名義移転する旨の話を持ち込み、森川はこれに応じた。

原告は、翌五日、鳥取信用金庫鳥取南支店に現金で八〇〇〇万円を入金し、これに対して振り出された同支店を支払人とする額面八〇〇〇万円の保証小切手を受領した。

他方、原告は前記森川忠亮との間で、同人がニッポー・ブレーンに本件不動産に関する売買の媒介を依頼する旨の同日付一般媒介契約書を作成した。

平成二年九月七日、鳥取信用金庫鳥取南支店において、同支店長星見知孝、廣谷博司、嶌津一、林敬二郎(廣谷らから登記手続きの依頼を受けた司法書士)、森川忠亮、その娘の森川直子及び原告の立会の上、本件不動産について、売主を廣谷ら買主を森川忠亮とする売買契約書が作成され、前記八〇〇〇万円の保証小切手により右売買代金八〇〇〇万円が決済された。その際、原告は自ら林司法書士に対して登記費用、登記免許等を支払い、林司法書士は森川宛の領収証を発行した。

また、その場で、本件不動産のうち別紙第一物件目録五の建物(四階建共同住宅)についてその賃借人からの家賃受取りのために、右支店に森川忠亮名義の普通預金口座(口座番号一〇五〇九九)を開設することとなり、森川直子がその必要書類及び右口座に係るとりしんキャッシュカードの発行を受けるための暗証届に記入、押印した。

ところで、右暗証届に記載された暗証番号「九四二〇」は、同支店で後に同年一一月二一日に開設された竹野名義の普通預金口座(口座番号一〇五二四三)に係るとりしんキャッシュカード暗証届に記載された暗証番号と同一であり、かつ右暗証届に記載された竹野の大阪市の自宅の電話番号の下四桁の数字とも同一であった。

林司法書士は、平成二年九月一〇日、本件不動産について同月七日売買を原因とする廣谷らから森川忠亮への共有者全員持分全部移転登記の手続をとったが、原告及び森川忠亮からの急な依頼により、右不動産について別紙担保権目録一、二の各登記の手続をとることとなり、右各登記が経由された。

更に、林敬二郎司法書士は森川忠亮及び原告の依頼により平成二年九月一一日本件不動産の登記済証書を礒根博司に手渡した。

竹野光太郎は廣谷らと森川忠亮との本件不動産の売買契約等については何ら関知していなかった。

前記森川忠亮とニッポー・ブレーンの間の一般媒介契約書に基づく仲介手数料の森川からニッポー・ブレーンに対する支払に関する領収証が平成二年一〇月六日付で作成された。

〈4〉 代物弁済契約書

原告と森川忠亮との間に、原告の森川に対する別紙貸金目録一乃至五の貸金の弁済に代えて森川が原告に対して本件不動産の所有権を移転する旨の平成二年一一月一九日付代物弁済契約書(確定日付は同月二七日)が作成され、同月二〇日、右不動産について同月一九日代物弁済を原因とする森川から原告に対する所有権移転登記がなされた。

竹野光太郎は右事実を何ら関知していなかった。

〈5〉 竹野による本件不動産の取得

竹野光太郎は、平成二年一二月五日、せとうち銀行三原支店の同人名義の定期預金口座より四一七〇万五七七七円を引き出した。右金額は後記同日付本件不動産売買契約代金二億五〇〇〇万円のうち当日支払うべき二億円と前記〈3〉第一段の既払金一億六〇〇〇万円の差額にほぼ等しい。

原告は竹野光太郎に対し平成二年一二月五日付で本件不動産を代金二億五〇〇〇万円で売り渡し、代金支払は同日二億円(手付金を含む)、平成三年一月二日五〇〇〇万円とする旨の売買契約書を作成し、右作成当日、竹野は原告に対し前段の引出金の内金四〇〇〇万円を支払い、原告は竹野宛に売買代金内金二億円の領収証を交付した。

本件不動産について平成二年一二月六日付で同月五日売買を原因とする原告から竹野への所有権移転登記がなされた。

竹野は原告に対し平成三年一月二日本件不動産の売買代金残金五〇〇〇万円を支払い、原告は竹野に対し同日付領収証を交付した。

その後、平成三年二月七日付合意書により、原告は竹野光太郎から錯誤を理由に本件不動産のうち別紙第一物件目録一の土地の一部と同目録二、三の土地の返還を受けて、売買物件を別紙第二物件目録四1乃至3の不動産と変更し、当初の売買代金から一平方メートル当たり一五万円で算出した金員を返還する旨合意し、これにより同人に対し同年三月一五日八六四万円を返還した。

〈6〉 本件不動産の管理状況

本件不動産のうち別紙第一物件目録五の建物(四階建共同住宅)についてその賃借人からの家賃受取りのために開設された鳥取信用金庫南支店の森川忠亮名義の普通預金口座(口座番号一〇五〇九九)には平成二年九月二七日から平成三年一月一四日までの間に合計一三六万〇二八〇円の入金があり、同日現在の残金は一三三万五六二七円であったが、同月一八日に一三一万円、同月二一日に二万五〇〇〇円が、いずれも三原信用金庫糸崎西支店、(現かもめ信用金庫糸崎西支店、礒根博司及び礒根登志子が取得し、同女が当時経営していた礒根洋品店の近隣に所在していた)において、キャッシュカードにより引き出された。

なお、後日広島国税局係官が調査したところ、竹野光太郎は本件不動産について同人買受の平成二年一二月五日以前の工事等に係る見積書や領収証(工事人寺島重弘の竹野宛の同年一一月一八日発行に係るひさし取付工事外の代金一〇七万三六四四円の見積書及び日付のない金額一一〇万五八五三円の領収書、工事人田中裕二のエイチ・アンド・エス(礒根博司が代表者)宛の受渡期日を平成二年一一月一八日とし、金額を九万二〇〇〇円とする電灯配線工事の日付のない見積書及び領収証)を所持していた。

以上の事実が認められ、甲第一〇、第一四号証の各一及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲認定に供した各証拠に照らし採用できない。

2  争点

〈1〉 買換資金としての取得

前項認定の竹野光太郎の礒根博司及び原告に対する不動産売却についての一括委任、更にその譲渡所得の節税対策としての買換資産の取得についての一括委任、礒根の原告に対する本件不動産の売り情報を伝達後の取得交渉などの一任、右不動産の一旦原告取得後の竹野への転売及びこれによる原告の転売利益取得についての竹野の承知、竹野の右不動産の現地見分の事実、原告と竹野との売買予定価格二億五〇〇〇万円が竹野の買換資産所得可能残額にほぼ等しいこと、平成二年九月四日の竹野のせとうち銀行三原支店からの一億六〇〇〇万円の払出及び原告への交付、翌日の原告の鳥取信用金庫鳥取南支店への八〇〇〇万円の入金及び保証小切手の受領、右小切手による廣谷らと森川忠亮との右不動産売買契約代金決済、竹野が右両者間の売買に関知せず、原告と森川との間の同年一一月一九日付右不動産代物弁済契約及びその旨の登記移転にも関知していなかった事実、同年一二月五日原告と竹野との右不動産売買契約当日の竹野のせとうち銀行三原支店からの四一七〇万円余の払出、同額が右契約書の同日支払約束分二億円と前記既払の一億六〇〇〇万円との差額に符合すること、同日の原告の竹野に対する二億円の領収証の交付、廣谷らと森川との売買契約書作成の際に右不動産のうち別紙第一物件目録五の建物(四階建共同住宅)についてその賃借人からの家賃受取りのために開設された鳥取信用金庫鳥取南支店の森川忠亮名義の普通預金口座の暗証番号と竹野の別口座の暗証番号及び竹野の自宅の電話番号との一致、右森川名義の口座の開設金融機関の所在位置、竹野による原告との売買契約前の本件不動産に係わる工事等の見積書及び領収証の所持の事実により竹野側、特に礒根博司及び登志子夫婦が右不動産を管理していた事実が推認できること、その他短期間における右不動産の転売の事実、関係者間の資金の出入り等からすると、右不動産は当初より竹野の不動産譲渡所得の節税対策の買換資産として物色され、竹野が取得することが予定され、原告が転売利益を得るために廣谷らから八〇〇〇万円で買い受けた後竹野に対して二億五〇〇〇万円で転売することを節税対策上竹野も了解し、廣谷らと原告との売買契約の際にその買受資金とするため右転売代金内金一億六〇〇〇万円がまず竹野から原告に交付され、以後右不動産は竹野の娘夫婦によって管理されるようになり、その後の原告と竹野との売買契約当日支払約束分二億円と既払金一億六〇〇〇万円の差額四〇〇〇万円が支払われ、平成三年一月二日残代金五〇〇〇万円を決済したものと認められる(森川の介在については後述する)。

原告は抗弁に対する認否aのとおり主張し、原告本人尋問の結果及び甲第一四号証の一(原告の照会に対する礒根の平成五年三月三一日付回答書)中には原告の右主張に沿う供述乃至記述部分がある。また、原告は右主張の裏付けとして、甲第三二号証の一(ミチル大新及び竹野の原告宛平成二年三月二三付二億六〇〇〇万円の借用証書)、第一四号証の二(右借用証書に係る公正証書)、同号証の三(平成二年九月四日付計算書)、第三二号証の二(竹野の原告宛平成二年一二月五日付一億七〇〇〇万円の借用証書)、同号証の三(竹野の原告宛平成三年一月二日付五〇〇〇万円の借用証書)等の書証を提出する。

しかし、これらは前記認定に供した証拠に照らし、直ちには採用しがたい。特に、右各借用証書及び公正証書は次に述べるとおり実体のない架空のものとして恣に作成されたものである疑いが濃く、いずれも採用しがたい。

すなわち、乙第一九、第三二号証及び証人新久保成年の証言によれば、竹野光太郎は広島国税局係官に対し前記原告提出の借用証書及び公正証書等についてその存在自体初耳であり、買換資産の取得等一切を委任していた礒根博司や原告に騙された旨陳述していることが認められ、甲第三九号証の一によれば、竹野は広島地方裁判所尾道支部平成九年ワ第四号・第五八号事件における被告本人尋問において平成二年三月二三日に第一勧業銀行天六支店のミチル大新名義の当座預金口座に振り込まれた二億六〇〇〇万円は当初の金融機関等への返済金捻出のための不動産売却の一環である大阪市天神橋の土地の売却代金である旨明言し、同日原告から二億六〇〇〇万円を借りたことはなく、原告から右借入金の返済を請求されたこともなかった旨、借用証書(甲第三二号証の一)及び公正証書(甲第一四号証の二)はでたらめである旨供述していることが認められる上に、仮に原告主張のとおり竹野が本件不動産の売買代金について借用証書(甲第三二号証の二)を差し入れたとするならば、原告は右借用証書に係る債権を保全するため右不動産に当然担保権の設定を経由するものと考えられるが、そのような形跡はなく、また、右不動産は竹野の節税対策用の買換資産なのであるから、その取得期限である平成二年末当時に売買代金の大部分である二億二〇〇〇万円(甲第三二号証の二、三の合計額)が未払いでは当初の目的を達成し得ないこととなり、それ自体不自然である。更に、乙第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は本訴に先立つ国税不服審判所長に対する審査請求の際甲第三二号証の一の借用証書の金銭消費貸借の資金源及び回収されたかどうかについてはいえない旨述べて、そのような実体があるならば当然明らかにしても差し支えない事項の開陳を拒んでおり、理解に苦しむ不審な態度を示している。そのほか、前記認定の竹野の買換資産の物色の経緯からして、竹野が全く資金がないのに原告から新たな借入をしてまで買換資産を取得するとは到底考えられず、ニッポー・ブレーンが取得資金も有していない竹野から買換資産の購入の媒介依頼を受けるとも考えられないところであり、前記1〈1〉のとおり、大阪の不動産売却に係るミチル大新の譲渡収入価額は四億九六五八万九三九〇円であり、ミチル大新はここから自己の借入金債務を返済したものであると容易に推認でき、右不動産売却に係る竹野の譲渡収入金額は一三億一〇四〇万〇九一八円であり、ここから保証債務の弁済金六億七〇〇〇万円及び不動産売却費用四五八三万二八四六円を差し引いても、竹野はなお五億九四五六万八〇七二円の資金を有していたことになり、乙第三四号証によれば、原告は平成元年一一月六日に竹野から広島銀行三原支店の原告名義の普通預金口座(口座番号〇七六四五六六)に振り込まれた六億三〇〇〇万円(前記1〈1〉)のうち、三億円を直ちに竹野に返還していることが認められ、これらの事実からすれば、竹野は買換資産の取得に必要な資金を十分に有していたものというべきである。(なお、原告は竹野が自己の不動産売却代金を二男竹野光信の住宅購入資金等にも充てたとも主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分もあるが、裏付けに乏しく、容易に信用できない)。更に、二億六〇〇〇万円の借用証書(甲第三二号証の一)及び公正証書(甲第一四号証の二)には元金弁済を平成五年三月二二日限り一括とする旨の記載があるのに、弁済期限前である平成二年九月四日の時点で竹野が原告主張のように右元本内金一億五〇〇〇万円の弁済をすべき理由も見当たらない(原告は右の期限の利益喪失を主張するが、裏付けに乏しく、信用できない)

原告本人尋問の結果中には右二億六〇〇〇万円の貸金の資金源は甲第一一号証に記載のある平成二年三月二二日広島銀行三原支店の原告名義の普通預金口座から引き出した四億円である旨の供述部分があるが、乙第二三、第二四号証によれば、右口座にあった四億円の内金二億円は、同年三月九日にせとうち銀行三原支店の原告名義の普通預金口座(口座番号二一九〇六一一、平成元年一二月一五日開設)から引き出され、同日付で先の口座に振り込まれたものであることが認められ、乙第二五、第二六号証によれば、後の口座は同年四月一八日に一〇六万二九六三円(同日の口座残金高一〇六万一七八四円に税引後の解約利息一一七九円を加算した金額である)を現金で引き出した後に解約され、同日せとうち銀行三原支店の竹野光太郎名義の普通預金口座(口座番号二一七八三二一)から四九三万七〇三七円が振替により引き出され、これに右せとうち銀行三原支店の原告名義の口座から引き出された一〇六万二九六三円を加算した合計六〇〇〇万円が同支店の竹野名義の定期預金口座(口座番号二一七八三二〇)に預け入れられていることが認められ、乙第二八号証によれば、同支店の原告名義及び竹野名義の各普通預金口座は礒根登志子又は竹野が預金及び払出をしていたことが認められ、これらの事実を総合すると、同支店の原告名義の普通預金口座は実質的には竹野に帰属するもので、同人が原告の名義を使用して自己の管理下に置いていたものであり、同口座から引き出され、原告の主張する広島銀行三原支店の原告名義の普通預金口座(口座番号〇七六四五六六)に振り込まれた二億円は元来竹野の所持する資金であったものと認められ、右原告本人尋問における供述部分も採用の限りではない。

以上によれば、抗弁に対する認否aの主張はいずれも前提に欠け、実体を伴わないものであり、前記甲第一四号証の二、第三二号証の一乃至三等は竹野から不動産売却及び買換資産の取得に関して一任を受けていた礒根博司又は竹野の知らぬ間に恣に作成した疑いがあり、採用の限りではない。

〈2〉 貸金債権

原告は抗弁に対する認否bのとおり森川忠亮に対し別紙貸金目録一乃至五の貸金を有する旨主張し、原告本人尋問の結果、乙第二号証の一乃至五(いずれも金銭借用書)中にはこれに沿う部分があるが、次に説示するとおりそのような事実は認められず、仮装されたものというべきである。

すなわち、乙第二号証の一乃至五によれば、右各金銭借用証書には借主として「森川忠亮」と、名宛人として「日野」と記載され、貸付年月日が記載されているだけで、返済期日、保証人、利率、利息の支払方法及び担保に関する事項などの記載は一切なく、ただ、平成二年二月九日付借用証書(乙第二号証の三)の返済期日欄に貸付日と同じ日付が記載されているだけで、巨額の貸金の借用証書としては極めて簡易かつ杜撰なものであり、乙第一五号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告が平成元年以降貸金業を営んでおり、右借用証書の記載は原告の貸金登録申請書の記載事項にも反していることが認められ、極めて不自然である(原告本人尋問の結果中には、別紙貸金目録一乃至五の各貸金債権は営業外のものであり、その借用証書は単に金銭の趣旨を表したものにすぎないので、返済期日等の記載は求めなかった旨の供述部分があるが、容易に採用しがたい)うえに、乙第一四、第三二号証及び証人新久保成年の証言によれば、原告は広島国税局係官に対し右各貸金債権は手持現金から貸し付けたものである旨甲述するのみで、その資金源を全く明らかにしていないことが認められ、本訴においても、原告は、その本人尋問の結果中において、平成元年当時は特に仕事もなく、手持資金により生活しており、余った現金は定期預金にはせず、自己の支配下(その意味するところは不明である)に置いていた旨供述するのみで、右資金源については何ら合理的な説明をなしえていないほか、乙第三二号証及び証人新久保成年の証言によれば、森川忠亮は平成四年一月二七日当時木造アパートに一人で居住し、炬燵もなく布団の中で寝ている状態で、造船関係の日雇の仕事で生計を立てており、資産状況についても金融機関等(三原信用金庫江南支店、中国銀行三原支店及び広島県信用組合三原支店)にいずれも数千円程度の残金がある程度で、過去の取引をみても、多額の借用に関する取引事例は皆無であり、不動産も三原市内で過去三年以内に取得した事実はなかったことがみとめられ、右のような森川に対し、貸金業を営む原告が、三億一六〇〇万円もの多額の金員を無担保・無保証で返済期日の定めもなく、従前の貸金の返済も一切受けずに、しかも、最後の別紙貸金目録五の九〇〇〇万円の貸付を除いては何等の保全措置も採ることなく次々と貸し付けるということは通常考え難いところであり、そのような異例な取引をするについて納得のいくような事情乃至説明は見当たらない。しかも、甲第二〇、乙第一、第一四、第一六、第一七、第三二号証及び証人新久保成年の証言並びに弁論の全趣旨によれば、森川は、原告からの前記借入金(右九〇〇〇万円を除く)の使途について、広島国税局係官に対し、他人への貸付や投機など個人的なことに使った旨甲述するのみで、所得税の滞納により再三の督促を受け、給与の差押えを受けながら、右借入金の具体的な使途を一切明らかにせず、原告も審査請求の手続までこの点を一切明らかにしていないことが認められるところ、原告は、本訴においても当初何ら具体的に主張していなかったのに、本人尋問に至って初めて、右借入金は森川が共同出資による商売をするための資金である旨供述したが、森川と共同出資をする他の者の氏名や共同出資による事業の内容等を具体的に明らかにするわけでもなく、被告指定代理人からの質問に対しては特段の理由もなく回答を拒絶しており、右の供述は採用の限りではない。通常、共同出資により事業をする場合、その事業に失敗したときはその責任を各共同出資者で負担することとなるのであるから、共に出資する相手方は資力を有する者を選定するはずであるが、前記森川の生活状況及び資産状況に鑑み、森川に対し他の者が共同事業の話をもちかけるとは到底考えられないことからも、原告の右供述は到底採用の限りではない。

これら事情に加えて、原告の森川に対する別紙貸金目録一乃至五の貸金債権の代物弁済を仮装することが、原告の平成二年度の不動産譲渡所得による転売利益を隠蔽し、損失を装って、課税を免れる手段となり得ることからして、右貸金債権は仮装されたものと推定するのが相当である。

〈3〉 森川忠亮による本件不動産の買受

前記1〈3〉のとおり本件不動産について元の所有者である廣谷らから森川忠亮への移転登記が経由されているが、次に説示するとおり、森川には右不動産を購入する理由は何ら存在せず、また、売買代金の出損や本件不動産の管理状況等についても所有者としての実態はなかったと認められ、同人は売買契約上の単なる名義人にすぎなかったものと認められる。

すなわち、前項認定の生活状態にあった三原市在住の森川忠亮が当初より竹野の買換資産として取得されるべく物色された鳥取市所在の高額な本件不動産を自己の資産として購入いなければならないような事情も経済的合理性も見当たらないところであり、乙第一四、第一七号証並びに弁論の全趣旨によれば、森川は、自己の右不動産の買受を前提とする平成二年所得税の確定申告に係る納付相談時、担当係官に対し、原告から九〇〇〇万円を貸してやるから鳥取市の物件を買ってほしい、そのあと儂にくれれば借金はチャラにしてやるなどと言われ、八〇〇〇万円で右不動産を購入した後、原告に譲渡した旨申述し、原告も、本件更正処分及び賦課決定処分に対する異議申立て時の調査の際、直接廣谷らから右不動産を購入すればよかったのではないかとの趣旨の質問に対し「物件的にはどうでもよかったが、売れることはわかっていた・・・代物弁済で取ってやろうとしていたので登記した」などと申述していることが認められ、これら申述からすると、原告が当初から右不動産を代物弁済により取得するつもりで森川に形式上取得させ、森川も原告に指示されるまま中間介在の仮装譲受人となったことをうかがわせるに足りる。

また、前記1〈2〉、〈3〉のとおり、森川忠亮が本件不動産の購入の媒介をニッポー・ブレーンに委任する旨の一般媒介契約書作成の前日である平成二年九月四日に、原告は竹野から右不動産の売買代金内金一億六〇〇〇万円を受領し、その売買代金の決済に用いられた保証小切手八〇〇〇万円の振出手続きは森川ではなく原告によって同月五日に行われ、登記費用等も原告から林司法書士に手渡され、資力のない森川からニッポー・ブレーンが仲介手数料を確実に取得できる日は売買代金決済日をおいてほかにないと考えられるのに、仲介手数料の支払日は同日ではなく平成二年一〇月六日となっていること、右不動産について廣谷らから森川への所有権移転登記経由と同日に原因を代物弁済予約、権利者を原告とする所有権移転請求権仮登記が経由され、前記1〈3〉、〈6〉のとおり森川への所有権移転登記経由以降の右不動産の管理も竹野側で行っていた(原告は森川が礒根博司に右不動産の管理を委任したと主張し、原告本人尋問の結果、甲第一〇、第一四号証の各一中にはこれに沿う部分があるが、容易に信用しがたく、乙第三乃至第七、第三二号証及び証人新久保成年の証言によれば、森川及び礒根と利害関係のないと認められる関係者(嶌津、廣谷及び星見支店長)の誰一人として、平成二年九月七日の売買契約締結の場に礒根が同席していた旨の申述をしておらず、しかも、当初、礒根は、広島国税局係官に対し、森川について「顔は見たことはあるが、話をしたことはない。それが何か関係あるのか」と申述していることが認められることからして、森川の依頼による管理の事実は到底認められない)ことなどに照らし、終始行動していたのは原告であり、その資金の供給源は竹野であって、森川には買主としての実体は全くなかったものというべきである。

〈4〉 代物弁済

前記1〈4〉のとおり本件不動産について元の所有者である廣谷らから森川忠亮への移転登記経由後、森川の原告との代物弁済契約書が作成されているが、その前提となる別紙貸金目録一乃至五の貸金債権は前記3説示のとおり仮装であって存在しないものと認められる上に、前記1〈2〉のとおり廣谷らの右不動産の売値が八〇〇〇万円であったこと、その平成二年当時における相続税評価額が別紙「本件不動産の取得費用の計算」一1のとおり合計四九六一万九九九九円であること、原告と竹野との間の平成三年二月七日合意書(甲第七号証の一)に定められた単価(一平方メートル当たり一五万円)に合計地積五五六・六三平方メートルを乗じた別紙第一物件目録一乃至三の土地の価額が八三四九万四五〇〇円であることに照らし、これを右貸金債権合計三億一六〇〇万円の代物弁済の目的物とするには凡そ相当性を欠くものであり、経済的合理性に反することなどからしても、右代物弁済契約が真実存在したとは到底いえない。

なお、別件訴訟における判断の前提として、右代物弁済契約が錯誤無効であるとする原告の主張が排斥されたからといって、本訴における当裁判所の前記結論が左右される筋合いのものではない。

〈5〉 その他の不適法事由

原告は抗弁に対する認否d前段のとおり主張するが、前記1のとおり本件不動産に係る竹野光太郎に対する売買契約の締結、右売買契約の売買代金二億五〇〇〇万円のうち大部分に相当する二億円の支払(残金五〇〇〇万円の支払は平成三年一月二日)、竹野に対する売買を原因とする所有権移転登記の経由がいずれも平成二年中になされ、右不動産の管理も同年中に竹野側に移転していたことなどの事実からすれば、右不動産の所有権は同年中に買主である竹野に移転したものと認めるのが相当であり、右不動産の譲渡による所得金額は同年分の所得というべきである。

また、原告は抗弁に対する認否d後段のとおり主張するが、前記1のとおり原告と竹野との間の右不動産売買契約の代金は決済済みであり、竹野側に解除事由は見当たらず、原告が右売買契約の解除の意思表示をしたからといって、それを有効とすべき事情は認められない。甲第二六号証の一、二によれば、原告は竹野に対し平成九年四月一八日付右売買契約の解除通知をしたことが認められるが、右は本件更正処分により原告の右不動産の代物弁済等の仮装の事実を指摘された後になされたもので、右処分による課税を回避する目的によるものとの疑いが濃い。

したがって、原告の右各主張は理由がない。

〈6〉 まとめ

以上によれば、原告の抗弁に対する認否a乃至dの主張はいずれも採用できない。

なお、原告は抗弁に対する認否第四段のとおり主張するが、これまでに説示したとおり被告の三原税務署長の本件不動産取引の実態把握に誤りはなく、右被告が不当な意図の下に職権を濫用し、故意に、事実を捏造するなどした形跡はまったくないものと認められ、右主張も理由がない。

3  本件更正処分

前記1、2によれば、抗弁1第一、第二段の事実が認められる。

したがって、原告は平成二年中に廣谷らから本件不動産を代金八〇〇〇万円で購入し、これを竹野光太郎に対し代金二億五〇〇〇万円で売却し、売却益を得たことになるところ、右売却益には竹野に対しての節税の報酬が含まれるとともに、竹野の買換の取得期限が迫っていたことによる買い進みに起因する値上がり益も含まれるものと解されるが、それらを区分することは実質的に不可能であり、右不動産の価額は当事者合意の下に二億五〇〇〇万円とする旨定められたのであるから、所得税法三三条の規定に基づいて、右利益全額を右不動産の譲渡に係る譲渡所得として認定し得ることになる。

なお、原告は、平成二年分の確定申告に際し、同年八月一一日細谷清治に対し別紙第二物件目録五1、2の各不動産を代金二二三〇万円で売却し、租税特別措置法(平成五年法律第一〇号による改正前の者)三五条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》を適用して分離短期譲渡所得の金額を〇円としていたが、被告らはこれについて争わない。

以上によれば、原告の譲渡価格は竹野光太郎に対する本件不動産の売渡代金額二億五〇〇〇万円から合意書に基づく返還金八六四万円を控除して得た二億四一三六万円となり、取得費は別紙「本件不動産の取得費用の計算」のとおり七八七三万三二一八円となるから、原告の平成二年の分離短期譲渡所得の金額は右譲渡価格二億四一三六万円から右取得費七八七三万三二一八円を控除した残金一億六二六二万六七八二円となり、右は本件更正処分に係る分離短期譲渡所得の金額一億五三九〇万五〇〇〇円を上回る。

これによれば、本件更正処分は適法である。

4  本件賦課決定処分の適法性

前記1、2によれば、抗弁2第一、第二段の事実を認めるのが相当である。

抗弁2のうち、原告が平成三年三月一五日平成二年分の確定申告に当たり「森川忠亮が同年九月七日廣谷らから購入した本件不動産を同年一一月一九日原告が森川に対して有する別紙貸金目録一乃至五の合計三億一六〇〇万円の貸金債権全額の弁済に代えて森川から取得し、次いで原告が同年一二月五日竹野光太郎に対し右不動産を二億五〇〇〇万円で売却したことにより譲渡損失が生じた」として、同年分の分離短期譲渡所得を〇円として申告したことは、当時者間に争いがない。

以上によれば、抗弁2第四段の事実が認められる。

右事実のおける原告の行為は国税通則法六八条一項に規定する重加算税の課税要件に該当するものと認められる。

したがって、本件賦課決定処分は適法である。

第三結論

よって、原告の本件訴え中請求の趣旨第二、第三段は不適法であるからこれを却下し、被告三原税務署長に対する本件更正処分及び賦課決定処分の取消しを求める部分(請求の趣旨第一段)は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟第六一条を適用して、主文のとおり判決する。

平成一一年一月二六日口頭弁論終結

(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 橋本眞一 裁判官 名越聡子)

第一物件目録

一 鳥取市興南町一六九番

宅地 五〇一・〇〇平方メートル

二 鳥取市興南町一七〇番二

宅地 二九・六一平方メートル

三 鳥取市興南町一七〇番五

宅地 二六・〇二平方メートル

四 鳥取市興南町一六九番地

家屋番号一六九番の一

木造瓦葺二階建居宅

床面積一階 九八・八七平方メートル

二階 四六・六二平方メートル

五 鳥取市興南町一六九番地

家屋番号一六九番の二

鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺四階建共同住宅

床面積一階 一三二・七三平方メートル

二階 一三六・七五平方メートル

三階 一三六・七五平方メートル

四階 一三六・七五平方メートル

第二物件目録

一1 大阪市東淀川区下新庄一丁目八〇番一

宅地 二三六・八八平方メートル

2 大阪市東淀川区下新庄一丁目八〇番地一

家屋番号八〇番一の一

木造瓦葺平家建

床面積 三八・八四平方メートル

3 (一棟の建物の表示)

大阪市東淀川区下新庄一丁目八〇番地一、同番地二、同番地三

木造瓦葺二階建

床面 一九三・三一平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号八〇番一の三

木造瓦葺平家建居宅

床面積 三五・八二平方メートル

家屋番号八〇番一の四

木造瓦葺平家建居宅

床面積 四六・七一平方メートル

二1 大阪市北区天神橋七丁目八五番一五

宅地 一五六・四二平方メートル

2 大阪市北区天神橋七丁目八五番一六

宅地 三九九・二二平方メートル

三1 大阪市北区天神橋七丁目八五番地五

家屋番号八五番五の一

鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根五階建店舗・共同住宅

床面積合計 七五六・八〇平方メートル

2 大阪市東淀川区淡路二丁目三六番地一五、同番地一六

家屋番号三六番一五の一

鉄筋コンクリート造陸屋根五階建共同住宅

床面積合計 八五一・五六平方メートル

四1 第一物件目録一

のうち四九九・〇八平方メートル(分筆後の一六九番一)

2 第一物件目録四と同じ

3 第一物件目録五と同じ

五1 尾道市久山田町字盛武前山一六〇番一三

宅地 二三四・五二平方メートル

2 尾道市久山田町字佐盛武前山一六〇番地一三

家屋番号一六〇番一三

木造スレート葺二階建居宅

床面積合計 一四四・六八平方メートル

貸金目録

一 貸付年月日 平成元年五月二〇日

貸付金額 一九〇〇万円

二 貸付年月日 平成元年一二月九日

貸付金額 八五〇〇万円

三 貸付年月日 平成二年二月九日

貸付金額 三二〇〇万円

四 貸付年月日 平成二年三月二二日

貸付金額 九〇〇〇万円

五 貸付年月日 平成二年九月七日

貸付金額 九〇〇〇万円

担保権目録

一 鳥取地方法務局平成二年九月一〇受付第一二一二四号

所有権移転請求権仮登記

原因 平成二年九月七日代物弁済予約

権利者 原告

二 鳥取地方法務局平成二年九月一〇日受付第一二一二三号

根抵当権設定登記

原因 平成二年九月七日設定

極度額 金一億六〇〇〇万円

債権の範囲 消費貸借取引、保証取引、手形債権、小切手債権

債務者 森川忠亮

根抵当権者 原告

本件不動産の取得費用の計算

以下、別紙第一物件目録1乃至3の土地を順次「甲土地、乙土地、丙土地」といい(併せて「本件土地」という)、同目録4、5の土地を順次「甲建物、乙建物」といい(併せて「本件建物」という)、本件土地の内、平成3年2月7日付合意書に基づき竹野から原告に返還された土地を除く残余の部分を「丁土地」という。

一 取得価額

1 本件不動産の相続税評価額(平成2年度)は次のとおりである(甲第二五号証、乙第三七号証)(路線価)(中小工業地区の奥行距離約三八.八mに対応する奥行価格補正率)(地積)

本件土地 62,000円×1.0×556.63m2=34,511,060円

(固定資産評価額)

本件建物 甲建物 1,505,884円×1.0=1,505,884円

(固定資産評価額)

乙建物 13,603,055円×1.0=13,603,055円

合計 49,619,999円

2 本件不動産は一括して廣谷らから価額80,000,000円で森川に売却されているため、上記購入価額を上記相続税評価額の比により按分計算して割り付けると、次のとおりとなる。

本件土地 80,000,000円×34,511,060円÷49,619,999円=55,640,565円・・・〈1〉

本件建物 80,000,000円×15,108,939円÷49,619,999円=24,359,434円・・・〈2〉

3 本件不動産の取得に要した廣谷らから森川への共有者全員持分移転登記に係る登録免許税1,381,000円及び林司法書士の報酬額35,900円並びに仲介手数料2,400,000円の合計3,816,900円を本件土地と本件建物にそれぞれ上記購入価額の比により按分計算して割り付けると、次のとおりとなる。

(〈1〉の金額)

本件土地 3,816,900円×55,640,565円÷80,000,000円=2,654,681円・・・〈3〉

(〈2〉の金額)

本件建物 3,816,900円×24,359,434円÷80,000,000円=1,162,219円・・・〈4〉

4 不動産取得税は次のとおりである(乙第1号証、弁論の全趣旨)。

本件土地 315,300円・・・〈5〉

本件建物 453,200円・・・〈6〉

5 原告が最終的に竹野に譲渡した丁土地の取得価額を、本件土地の合計面積五五六.六三平方メートルと丁土地の面積499.08平方メートルの比により算出すると、次のとおりとなる。

(〈1〉の金額)(〈3〉の金額)(〈5〉の金額)(丁土地の面積)(本件土地の面積)

(55,640,565円+2,654,681円+315,300円)×499.08m2÷556.63m2=52,550,799円

6 本件建物の取得価額は、上記〈2〉、〈4〉及び〈6〉の合計金額25,974,853円となる。

二 減価償却費

1 本件建物の取得価額25,974,853円を、甲建物と乙建物に-1の相続税評価額の比により按分計算して割り付けると、次のとおりとなる。

(取得価額)

甲建物 25,974,853円×1,505,884円÷15,108,939円=2,588,872円・・・〈7〉

(取得価額)

乙建物 25,974,853円×13,603,055円÷15,108,939円=23,385,981円・・・〈8〉

2 本件建物の耐用年数を、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第一により、甲建物は「木造・住宅用」として二四年、乙建物は「金属造肉厚4ミリメートル超・住宅用」として40年を適用し、償却率はそれぞれ定額法の0.042及び0.025を適用し、経過年数を平成2年9月から同年一二月までの4か月として本件建物の原価償却費を計算すると、次のとおりとなる。

(〈7〉の金額) 残存価額 償却率 経過月数

甲建物(2,588,872円-258,889円)×0.042÷12×4=32,169円

(〈8〉の金額 残存価額 償却率 経過月数

乙建物(23,385,981円-2,338,598円)×0.025÷12×4=175,394円

三 本件不動産の取得費用

以上によれば、本件不動産の取得費用は、次のとおりとなる。

本件土地の取得価額 本件建物の取得価額 甲建物の減価償却費 乙建物の減価償却費

52,550,799円+25,974,853円+32,169円+175,394円=78,733,218円

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